空飛ぶペプシ
2000年3月末。このワタクシは、愛すべきホッケーチームであるモントリオール・カナディアンズをなんとかプレーオフに押しやるべく、米国フロリダ州に渡った。別にこのワタクシが行ったからといって急に成績が改善するわけではないのだが。
プレーオフ出場の権利にもう少しで手が届こうとしていたカナディアンズは、フロリダ・パンサーズとタンパベイ・ライトニングの2チームと戦うことになっていた。2勝すれば、ほとんどプレーオフ出場を確定できる状況である。
この時期にフロリダ行きを敢行したのは、これまた愛すべき野球チームモントリオール・エクスポズの春季キャンプもプロリダで行われていたからである。
シカゴ経由でマイアミに入ったこのワタクシは、激しい時差ボケにもかかわらず、レンタカーでパンサーズの本拠地であるサンライズ(マイアミから約一時間半)のアリーナに駆け付けた。サンライズはフロリダ半島の東海岸に位置する。
このワタクシの応援もむなしく、ロシアン・ロケットの異名をとるパベル・ブレに2ゴールを決められるなどして、カナディアンズは完敗した。
選手はは翌日の夜の試合に向けて、試合終了後すぐに、チャーター機でタンパに移動した。タンパはフロリダ半島の西海岸に位置する。
このワタクシは、サンライズのモーテルで一泊したあと、タンパに車で向かった。
8時間。。。
タンパに着くやいなや試合は始まった。
時差ボケ。長距離運転の疲労。ほとんど眠りながらホッケーを見ていた。
カナディアンズが勝った、、、が詳細はほとんど覚えていない。。。
翌日はエクスポズのオープン戦を見に行くため、再び8時間程度の運転をしなければならない。エクスポズのキャンプ地であるジュピターは、フロリダ半島の東海岸に位置し、前日滞在していたサンライズの近くである。伊良部の登板予定日だったので、どうしても昼までにジュピターに移動したかった。
起きた時点で9時。完全に間に合わない。
とりあえず、ダメモトで、航空会社数社に電話してみた。ある会社の便に、10時半のウエスト・パーム・ビーチ(ジュピターまで20分くらいのところにある都市)行きがあると判った。聞いてみると、ウエスト・パーム・ビーチまでの所要時間は45分である。。。
前日車で移動したことを後悔しつつ、タンパ空港に向かった。
空港に近づくにつれて、空の色がだんだん黒くなっていく。空港に着いた頃には、いまにも土砂降りになりそうであった。
レンタカーは空港で乗り捨てた。
搭乗手続きを済ませ、ゲートの近くで飛行機を待っていると、激しい雷雨となった。
急ぐ必要もなかったので、売店でホットドッグとペプシを買い、待合室で搭乗開始時刻を待つことにした。
ペプシの「大」は、日本人の感覚からすると、おそろしい大きさであった。売店のおばちゃんが、「フタはいるか」と聞いたが、飲めないこともないであろうと思って、「いらない」と言った。雷雨のために飛行機が遅れるであろうことも計算に入れていた。
、、、と、いきなり、搭乗開始を告げるアナウンスが入った。
なんとかホットドッグを口に押し込み立ち上がったものの、ペプシを飲みきれない。しかし、捨てるにはもったいない。
ゲートに着いたが、飛行機が見えない。飛行機までバスか、と思っていると、なんとミニチュアのような飛行機がこのワタクシを待っていた。20人も乗れないであろう。
飛行機が小さすぎるために、飛行機のドアとゲートが接続できない。ゲートを抜けたあと、簡易階段を利用して地面におり、直接飛行機に乗り込むことになる。階段を下りてから飛行機に乗るまでの数メートルは吹きさらしである。激しい雨が地面を叩きつけている。片手に、フタのないペプシを持ったこのワタクシは、ダッシュはするものの、すぐにずぶ濡れになった。ペプシの量も心なしか増えていた。
わずか3人の乗客と、3人の乗員(機長+副機長+アテンダント)を乗せたミニチュア飛行機は、大型機のみならず、中型機にも見下ろされながら、ソロソロと滑走路の端っこに着いた。依然として窓の外は雷雨である。
天候の様子でも見ていたのか、しばらく滑走路で待機したあと、飛行機は走り始めた。そして、飛んだ。
5メーター、10メーター、20メーター、50メーターと徐々に高度は上がっていく。大型機の上昇と比べると極めて遅い。しかたのないことである。
雨雲は低い。すぐに雲に突入した。
ガクーン。いきなりバウンドしたような衝撃が飛行機を襲った。体が一瞬宙に浮く。
そして、フタのないペプシも宙に浮く。浮いたものは落ちてくる。少し後方に流れながら。
後の席のビジネスマンが、悲鳴を上げていた。
飛行機は悪天候の中、最後まで「ベルト着用サイン」が消えることなく、ウエスト・パーム・ビーチに着陸した。
後の席を見ると、うなだれたビジネスマンのシャツが水玉模様の柄シャツになっていた。。。










