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笑わせる商社マン・N~第十二章 煙突~

 その男(仮にNとしておく)は、冒険心が旺盛といえばよいのか、それとも、単に何も考えていないというべきか、とにかく無鉄砲な男である。

 ある時Nは部下(こちらは、仮にSとしておく)と香港へ出張することになった。
 香港の空港に23時に到着し、ホテルに着いたときには日が変わっていてヘトヘトになったものの、ホテルでは運良く「スィートルーム?」にアップグレードされたNは多少気を良くしていた。もっとも、ホテルそのものがボロボロなのでスィートルームといわれる部屋が普通のホテルでいう普通の部屋であった。目の前には九龍の夜景が広がるかと思いきや、窓を開けて眼下を見下ろすと、九龍の裏社会の縮図のような光景が広がっていた。
 翌日は取引先に行く前に、別のホテルに泊まっているSを呼び付け、数時間「スィートルーム?」で打合せを行った。呼び付けられたSは、「これがスィートルームなら、自分の安ホテルの普通の部屋の方がマシである」とはどうしても言い出せなかったらしい。
 会社のように電話で邪魔されることもないせいなのか、それとも「スィートルーム?」のなせる業なのか、二人の仕事はスコブルはかどり、無事に取引先との交渉準備万端となった。
 果たして、(珍しく)無事に交渉は成立し、二人は広東料理屋で舌鼓を打ったあと、夜遅くホテルに戻っていった。Sまで同じホテルに戻ってきたのは、折角なので「スィートルーム」でもう一杯祝杯を挙げようということになったのである。(ちなみに、言うまでもないが、交渉成立においてNの役割はほとんどなく、S一人の頑張りが功を奏しただけである)
 ちなみに、二人の行った広東料理屋では、香港にしては珍しく、どういうわけかテーブルの上に灰皿もなく、またタバコを吸っている人は誰もいなかった。「灰皿を持ってこい」なんていう広東語を話せるわけもなく(それどころか、メニューすら読めないのである)、タバコを吸うこともなくホテルに戻った二人は、すぐさまタバコに火をつけた。「やはり一仕事のあとのタバコは最高だな~、S君」と上機嫌のNは、大して仕事もしていないのに呟いた。
 テレビを点けると、「NHK海外安全情報」なる、いかにもNHKの海外向け放送的な番組をやっていた。この番組は、海外で起こっている事件や暴動、病気、危険等の情報を淡々と流している番組で、日本語のチャンネルがたくさんあって選択の余地があるなら多分チャンネルを変えているような番組ではあるものの、Nのような「冒険型」ビジネスマンにとっては結構役に立つ番組である。(とは書いたものの、Nにはあまり役に立っていないことに気付いた。役に立っていれば、あれだけの武勇伝を作り上げないハズである)
 「海外安全情報」は、各地で発生している危険をいくつか紹介し、数分で終わった。その番組を見ていたわずか数分の間に、Nはうまそうに三本目のタバコを燻らせていた。
 、、、と、そのとき、ホテルの非常ベルがケタタマシク鳴り響いた。ものすごい偶然である。「安全情報」も何もあったもんじゃない。。。ちなみに、「スィートルーム?」は38階である。
 「エレベーターが止まったら自力では降りれない。。。」などと考える余裕がNにあったのは、世界中で数々の危険を自ら引き起こし、それらをかいくぐった経験のなせる業かもしれない。しかし、自力で降りれないからどうしたらよいのだろう、というところまでは考え付かない。そして、どうしようもないならこのままタバコを吸い続けよう、と相変わらず煙を吐き出していた。
 非常ベルは依然鳴り続けている。Sが「様子を見てきます」と部屋の外に飛び出していく。 、、、と、その瞬間、ベルは鳴り止んだ。
 二人はホッとして、再び雑談を再開。「いや~、こういう誤作動って多いよね」なんていうことをしばらくの間話していると、部屋の呼び出しチャイムが鳴った。
 「今の非常ベルの説明かな」と思ってNがドアを開けると、そこには物々しいイデタチの人が数名立っていた。見るからに今から消火活動を開始しようとしている消防隊員である。そして、何も言わず(広東語で語られても理解できないが)、部屋に突入してくるなり、煙探知機に棒状の機器を突き当て始めた。

 「モーマンタイ、モーマンタイ、ホーサイレイ、、、」、意味不明の広東語が連発されている。
 最後に、「タバコを吸うときは、ファンを回せ」と英語で言って、勢いよくファンのボタンを押し、彼らは去っていった。
 非常ベルを鳴らしたのは、NとSであった。。。
 Sが外に出た瞬間非常ベルが鳴り止んだのは、そのときに煙が外に流れたからにすぎなかったのである。。。

 いまだかつて、タバコを吸いまくって非常ベルを鳴らした男というのはN以外に聞いたことがない。。。
 このとき以来、彼のことを影では「煙突」と呼んでいる。


この物語はフィクションであり、登場人物は一切実在の人物とは関係ありません






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コメント (4)

私設秘書:

まるでその場に居合わせたような情感がありますな。N氏の行くところトラブルありですな。

ぱんちょ:

 それが文才というものでしょう。
 最近はこの「笑わせる商社マン」の取材といえども、できるだけN氏には近付かないようにしています。。。

Henry:

Nは分かっているが、Sって誰?全然思い出せないのです。教えてや。

Henry殿、

 この物語はフィクションであり、
N以外の人物は、まったくの架空の人物でございます。。。

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