米国入国審査(2)
アメリカに入国するときの入国書類はどこで入手するだろうか。
世界の多くの国に入るときは、出入国カードと税関申告書を記入しなければならない。これらのうちの片方だけを記入させる国や両方をまとめて記入させる国もある。
これらの書類は、アメリカに限らずたいていの国に向かう乗り物の中で配られる。親切な航空会社では、書類への記入方法までスクリーンで上映してくれたりするものである。
このワタクシ、あるときカナダのオンタリオ州とアメリカのニューヨーク州の境にある、おそらくアメリカ人とカナダ人しか通らないような国境地点からアメリカに入国したことがある。もっとも、それまでにも、モントリオールとニューヨーク州を結ぶ鉄道で入国したこともあるし、バンクーバーとシアトルを結ぶフリーウエイ上でも入国したことはあった。
レンタカーでモントリオールからオタワに向かったこのワタクシは、往路ではオタワ川沿いの一般的なルートを取ったのだが、復路で同じ道を戻るもの味気ないので、オタワから南下してセントローレンス川沿いをモントリオールに戻ろうと試みた。米加東部の国境線は、西部地域に見られる数千キロも続く一直線の国境線ではなく、地形に合わせて国境線を引いたのであろうか、この辺りではセントローレンス川が国境線となっている。
最初は国境のカナダ側を東に向かって走っていたこのワタクシではあるが、国境の南はこの地域ではどうなっているのだろうかという興味本位で、「USAはこっち」という表示に従って再び南下を始めた。
大河が国境となっているので、どこにでも入国ポイントがあるわけではない。まずは橋を渡らないといけない。標識に従って入国ポイントに向かう橋に差し掛かる。
アメリカ人とカナダ人がお互いの国に入るときは、パスポートがなくても運転免許証だけで通過できるようで、たまに思い出したようにトランクを開けたりしているようである。
この国境ポイントは、このワタクシが思っていた以上に混んでいた。どうやら、カナダ側に入ったところにカジノがあるせいか、カナダで一攫千金を狙ったあとアメリカに戻るアメリカ人の渋滞に巻き込まれたようであった。
このワタクシは自分の車で走っているので入国書類を配ってくれる人がいない。そこで某航空会社が機内で配ってくれたときに予備で貰っていた出入国カードと税関申告書を渋滞中の橋の上で記入した。
ようやくこのワタクシの順番が回ってきたので、入国審査官の前で運転席の窓を開けて、日本のパスポート、出入国カード、税関申告書を渡す。すると、入国審査官は、少し前方にある駐車スペースに車を止めろ、と言う。これはよくある話で、アメリカ人とカナダ人ではない場合は、少々時間が掛かるので後続の車を通すために別の場所に移動させるのであろう。過去に通過したことのあるフリーウエイ上の国境ポイントであれば、パスポートと書類を持った入国審査官が一度建物に戻って何かを確認した後開放されるか、場合によってはその場で開放されることもある。(多分、空港で入国するときに彼らが使っているコンピューターか何かに照会しているのであろう)
ところが、このときの米国入国審査は一味違ったのである。
建物に戻った入国審査官がどれだけ待っても帰ってこない。米国の敵国と思われる国々の入国スタンプが押されまくっているパスポートを入国審査官に示すのは、いつのときでもビビルものである。これがシカゴ空港であれば、他の日本人もいるだろうし、航空会社の人もいるので、イザと言うときにはなんとかなるであろう。しかし、この辺りでは誰がこのワタクシを助けてくれるのだろう。強制送還されるとまだありがたいが、このまま拘置所にぶち込まれたらどうなるのだろう。
不安に襲われたこのワタクシは、目の前に大きく「車から降りないでください」と書かれた看板があるにもかかわらず、意を決して建物に向かった。これだけで射殺されるかもしれない、、、なんて思って建物を覗き込むと、意外にも、先ほどの入国審査官が手招きをしている。
「時間が掛かって申し訳ないが、実は大きな問題が起こってしまった」と入国審査官。
うぎょ、やはり拘置所行きか。この際こちらも対決覚悟である。
このワタクシは、「どうしたというのだ」とロバート・デニーロのように渋く聞いた。入国審査官にはダニー・デビートにしか見えていなかったかもしれないが。
「実は、、、」と、心持ち声が低くなった入国審査官は続けた。「この入国書類に問題がある」
「こんなものに問題がある訳はないではないか」とデニーロ。
「書類そのものには問題は無いかもしれない」と審査官。
「ではどこに問題があるというのだ?」とデニーロ。
「実は、、、」さらに声が低くなる審査官。「この入国書類は勝手に持ってきて書くものではない。ここで買うものである。あなたはこれをどこで入手したのだ?」
このワタクシは思わず吹き出しそうになった。
「そんなアホな。こんなもんどこでも配ってまっせ」と、思わずデニーロが関西人になり、「ここに航空会社のロゴが入ってまっしゃろ。この航空会社がくれたんですわ。冗談もええ加減にしはなれ」と笑いながら言った。
「そんなわけはない。入国書類は買うものである」と、入国審査官はこのワタクシの言葉に少し苛立っていた。
そういうやり取りがしばらく続いたが、埒が明かないので金で解決した方が早そうだと思ったこのワタクシは、「で、ナンボでんねん?」と聞いた。
すると入国審査官は、横でやり取りを見ていた自分のボスらしき人物に相談をし始めた。二人は「あ~でもない、こ~でもない」と早口でやり取りしている。なぜ国境にもかかわらず入国審査書類の値段が二人もいる入国審査官の頭に入っていないのだ。
しばらくやり取りが続いたあと結論が出たようである。
彼らは「6ドルだ」と口をそろえて言った。
このワタクシは、まったく腑に落ちないものの、財布から6ドルを取り出して入国審査官に渡した。
それまで、空路では当然としても、陸路でアメリカに入国する時に審査書類代を取られたことはなかった。それまでの入国審査ポイントがハイウエイ上という幹線であったからかもしれない。しかし、最近、6ドルを取られた入国審査ポイントよりもさらに小さな入国審査ポイントですら金は取られなかった。
間違いなく、6ドルは彼らのその夜のビール代になっているに違いない。
開発途上国において、ビザ代として数万円吹っかけられることはよくあるが、超大国のアメリカ合衆国において入国する外国人の足もとを見て金を吹っかけるとはケシカラン話である。もっとも、「6ドル」というのがかわいいところではあるが。。。
(関連サイト)
・「米国入国審査」
・「あおのり世相をぼやく: メキシコに拳銃を持ち込むな」










