5年用パスポート
飛行機に乗るとできる限り一番後ろの席に座るようにしている。これは、単に後ろに人がいるとリクライニングシートの椅子を倒すときに気にしないといけないから、という理由だけである。後ろに人がいなければ、ずっと倒していても誰も文句を言わないわけだ。
後ろに座れば座るほど、飛行機から出るのが遅くなってしまう。飛行機に乗っていると、飛行機が到着すると「ベルト着用サイン」が消えていないにもかかわらず、立ち上がって前方に向かっている人が多いのが現実である。
その昔、開発途上国に足しげく通っていた頃、飛行機のタイヤが地面に着いた瞬間に、まだ飛行機が全速力で滑走しているにもかかわらず立ち上がっている人が大勢いた。その時の経験から、飛行機が止まってから乗客が立ち上がるまでのスピードでその国の民度が分かるのではないか、と勝手に「立ち上がり民度論」を持論としている。この点では、日本人の民度はかなり低い。いずれにしても、このワタクシとしては、飛行機が止まってからいかにすぐに行動しないか、を自分なりのストイックな生き方の一つとして考えているので、後ろの方に座って出口に近付くのが遅れようと何の文句もない。
先日、香港からの飛行機で、相変わらず一番後ろの席に座っていると、隣の席には御年配の女性が座っていた。
ひょんなことから話を始めると、この人はすごい人であった。なんと、南アフリカに一人旅してきた帰りとの事である。南アフリカに一人旅する事自体はすごいこととは思わないが、なんとこの女性の年齢は79歳であった。夫に先立たれ、余生は旅行して過ごしているとのことである。自らの夢として、「世界三大瀑布を見る」という壮大な夢があり、ナイアガラ(アメリカ・カナダ)を征したあと、昨年、78歳にして、イグアスの滝(アルゼンチン・ブラジル・パラグアイ)に乗り込み、今回ヴィクトリアの滝(ジンバブエ・ザンビア)を満喫してきたとの事であった。
正直言って、この行動力には参った。この三つを見たという人には、このワタクシ自身を除いて会ったことがない(実際には、世の中にはたくさんいるのだろうが)。いろんなことを雑談したのだが、このワタクシのこれからの人生においても意味のあるコメントを幾つもいただいた(その内容については、おってこのブログでも触れたいと思う)。
成田に着いて、その女性がパスポートを取り出したのを見ると、色が紺色であった。今の日本は、10年用の赤と5年用の紺が民間人に渡されているパスポートである。
「やはりよく旅行に行かれるので、5年用なんですか」と聞くと、「今までは10年用でした。でももう10年は生きませんから。。。」とあっさり言われてしまった。
それを聞いて、人生ってなんだろう、と考えざるを得なかった。三大瀑布を見ていずれ彼女は死ぬ。色々な宗教がどう定義しようと、彼女が見たものを彼女が冥土に持っていくとは思えない。何のために、人間は夢を持ち、達成するのだろうか。夢を持たずに、何気なく人生を終えても大差がないような気がする。ひょっとすると、このワタクシは、この40年に迫る人生で何も悟っていないだけなのか?
ちっぽけなこのワタクシが願うことは、今回夢を達成した彼女には長生きしてもらいたいということだけである。










