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野球音痴とノーヒットノーラン

 今から10年以上も前のことである。
 このワタクシの前にとんでもない野球音痴が現れた。とりあえず野球のことは何も知らないのである。
ピッチャーが投げて、バッターが打つ、柵を越えたらホームラン、、、これくらいしか知らない。

 例えば、バッターが打ったあとどちらを向いて走るのか、フォースアウトとは、タッチアップとは、、、当然分からない。だから、ダブルプレーなんて分かるわけがない。
 その男を徐々に鍛え上げて、アウトになるケースを、タッチしないといけないケース、とタッチしなくて良いケースなどと一から教えた。
 また、守備位置の番号も分かっていないので、スコアボードの数字が守備位置を表していることを教え、ついでに「S」、「B」、「O」、「H」、「E」、「Fc」などのスコアボードに表示されている記号の意味も教えた。ちなみに、この男は、一塁手は1塁のベース上に、二塁手は2塁のベース上に立っているものと思っていたので、遊撃手というポジションの存在を知らなかった。
 ようやく一通りの特訓を終えたあと、甲子園球場にこの男を連れて行った。
 このワタクシは、各イニングごとに復習を兼ねて質問をした。
「センターは誰だ?」
「・・・・・・」
「センターは8だろ」
「え~と、、、新庄です」
「セカンドは?」
「ベースに人がいません。。。」
「だからセカンドは1塁と2塁の間だって教えたやんけっ」
「そうでした。。。」
 物覚えの悪いヤツである。
 とはいえ、9イニングもの間、表と裏でこれを繰り返すと、最後には「タッチアップ」まで理解するようになった。やはり、何事でも実地で特訓しないといけない。

 そして、その翌週我々は藤井寺球場に乗り込んだ。近鉄対オリックスという今ではありえないカードである。
 ピッチャーは佐藤義則。
 答を先に言っておくが、この試合で佐藤義則は、史上最年長でのノーヒットノーランというすごい記録を打ち立てることになる。
 このワタクシは、前回と同様に質問を繰り返した。
 さすがに、今回は今までの特訓が効いたのか、かなり野球というスポーツを理解していた。
 このワタクシがトイレに行っている間に起こった事も、すべて説明できるようになっていた。
 7回くらいからグランド上もスタンドも慌しくなってきた。正確に言うと、慌しくはあるものの、緊張感が高まってきた、と言った方が良いのか。とにかく佐藤義則はヒットを打たれていないのである。
 さすがのこのワタクシも、この野球音痴の男に質問をする気はなくなってきた。
 7回もノーヒット。
 8回もノーヒット。

 すると、8回の裏が終わったとき、この男がポツリと呟いた。
 「そろそろ疲れてきたので帰りませんか。。。」

 もう少しでトンでもない記録を見逃すところであった。。。






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コメント (2)

miha:

大爆笑です。
っていうか、よくぞそこまで鍛えましたね〜
そこに、
Panchoさんの野球愛を見ました。

 このワタクシ、マレーシア人に野球を教え込んだ実績があります。
 このケースは相手が日本人だったので、少しはマシでした。相当なツワモノではありましたが。。。

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