ウズベキスタンホテル
このワタクシが初めてウズベキスタンに行ったときのことである。
モスクワから夜行便で数時間掛けて首都のタシュケントに明け方到着。
ソ連が崩壊したばかりだったせいか、なぜかあの頃の入国審査には恐ろしい時間が掛かっていた。
強烈な睡魔の中、なんとか昼前に入国を無事に済ませ、ウズベキスタン随一のウズベキスタンホテルへ。
本当なら爆睡したいところだが、会議の時間が迫っていたので、シャワーだけ浴びるために部屋に向かった。
同国随一のウズベキスタンホテルにもかかわらず、部屋に入ると、洗ったことが一度でもあるのかというようなシーツの掛かったシングルベッドに、周りを囲まれていないシャワーコーナーがあるだけであった。バスタブなどある由もない。
時間がないので、慌ててシャワーをひねる。
すると、飛び出してきたのは、水ではなく、大量の小さな昆虫であった。
しばらくすると勢いのない水が出てきたが、温度調節もできず、なんとか泡立てた石鹸を落とすのもままならない状況であった。
とりあえず、シャワーした気にならないシャワーを終えて会議に向かう。
部屋の外に出ると、昔ながらの大きな鍵を鍵穴に指してグリッと回し鍵を掛けた。
、、、はずなのだが、鍵が掛からない。
どうやら建てつけが悪いのか、二枚の板でできている扉の前後の鍵穴の位置が微妙にずれているらしく、外側の板から鍵穴に鍵を突っ込んでも内側の板の鍵穴に合わないらしい。
数分グリグリしていると、鍵が板と板の間の隙間に落ちてしまった。にもかかわらず、鍵だけが掛かった。
鍵が掛かったのでヨシとし、おまけに取られて困るものも部屋の中にはないので、そのままホテルを一旦あとにして訪問先に向かった。
激しい睡魔と戦いながらなんとか会議を終えると、取引先のウズベキスタン人が「飯に行こう」と誘ってくれた。「眠いので、、、」とも言えず従っていると、相手も気を使ってくれたのか、このワタクシの泊まっているウズベキスタンホテルの最上階のレストランに連れて行かれた。
ホテルの最上階のホテルは、なんと北朝鮮レストランであった。とはいえ、アジア料理全般を提供しているようであった。
すべての料理がゲテモノに見えるので、とりあえず安全策として、「kichin Udong」と書いてあるうどんのようなものを頼んだ。
果たして、出てきたものは、きつねうどんとコムタンスープをたして2で割ったようなものであった。
無理やり喉の奥に押し込んだ記憶しかないが、とりあえず食べていると、いきなり場内が暗くなり、中国的な音楽とともに、中国人風の軍団がステージに現れた。
しばらく見ていて判ったのだが、彼らは売れない雑技団だったようだ。
ビール瓶を叩き壊して散らばったガラスの破片の上に寝そべってニコッと笑ったり、口の中から火を噴いたりしていた。これにはさすがのワタクシも驚愕してしまった。。。
ようやく開放されて部屋に帰ったのだが、扉の前で鍵がないことを思い出したのである。
言葉も通じないこの国ではあるが、とりあえずフロントに行って事情を話さなければいけない。
最終的にどう理解してくれたのかは判らないが、係の者が部屋にやって来て扉を外し、間に落ちた鍵を拾ってくれた。
当時唯一知っていたロシア語である「スパシーバ」(ありがとう)を連呼して、無事に部屋に入った。
この鍵は、再び内側から閉めないといけないのだが、またもや鍵穴が合わない。
昼と同じようにグリグリしていると、なんとか鍵が掛かった。
念のために、一度開けてみた。これまた当然鍵穴が合わないのでグリグリすることになる。どうやら開ける方が大変なようだということが判った。翌朝開けるのに時間が掛かるとまずい、と半分眠りかけの思考能力が落ち込んだ状態で思ったこのワタクシは、これは鍵をかけずに少しだけ開けておいて寝ようと考えた。
その後の事はよくは覚えていないが、そのままベッドに転がり込んで寝てしまったようである。
そして、このワタクシは夢の中で絶世の美女に出くわした。
金髪の美女がこのワタクシの耳元で何かを囁いている。何度も何度も囁いている。
普段ならこちらもニッコリとして囁き返すところだが、もっともっと眠りたくてそれどころではない。
やがて美女はこのワタクシの体を揺すりだした。
そこで目が覚めた。
なんと、、、そこには本当に美女がいたのである。
金髪のロシア美女がこのワタクシに覆い被さらんばかりである。
これはラッキー、、、と普段なら思うところだが、この日に限って恐怖感が先行した。。。
少し開けた扉から進入してきたであろう彼女は間違いなく売春婦だったとあとから冷静に考えればそう思うのだが、その時点では彼女をオイハギだと思ったこのワタクシは、彼女を部屋から叩き出した。
叩き出したときに勢いよく扉を閉めたせいか、鍵が掛かってしまった。。。 そもそも扉は閉めたら鍵が閉まるようになっていたようである。その時は、朝になって鍵を開けるのに苦労するということはすっかり忘れてはいたが。。。
再び眠りに落ちたこのワタクシは、爽快な朝を迎えた。
初めて落ち着いてホテルの窓から街を眺めると、都会ではあるが緑の多い綺麗な街である。
部屋の中を見回すと、一泊して慣れたせいなのか、最初の印象ほどは悪くは見えない。
テーブルの上に注意書きが置いてあったので、それとなく見てみると、「テレビのリモコンは持ち帰らないでください」と書いてある。「そんなヤツ、おらんやろ~」と思いながら、相変わらず水量の少ないシャワーを浴び、モスクワに戻る準備を始めた。
ふと扉が閉まっていることに気付き、昨夜の出来事を徐々に思い出してきた。今から思うと勿体無かった、、、なんて考えながら、鍵穴に鍵を通して扉が開くか試してみる。
、、、開かない。。。
何度やっても開かない。。。
結局30分も掛かってようやく扉を開けた。
そんなこんなでもう空港に向かわなくてはいけない。
慌ててパッキングを始めたが、時間がないので、スーツケースに適当に衣類などを放り込んでロビーに向かった。
なんとかギリギリで飛行機に搭乗しモスクワに戻ったこのワタクシは、旧ソ連第一の都会のまともなホテルに戻ってホッとしながら、ウズベキスタンホテルでの夢のような出来事を思い出しつつ、スーツケースを開けた。
ウズベキスタンで放り込んだ衣類を一つ一つハンガーに掛けていると妙なモノが出てきた。
テレビのリモコンであった。。。
処理に困ったこのリモコンは、いまだに我が家に置いてあるのであった。。。










