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おかんの呟き

 だいぶ前に、今奈良に住んでいるおかんと知床に行ったときの話である。

 我々は、このワタクシお気に入りの、熊の湯温泉という羅臼にある露天風呂に浸かった後、知床峠越えをした。(参照:「知床-熊の湯温泉-」)
 知床峠に行くといつも雲の中なのだが、このときもそうであった。
 雲の中というか霧の中というか、とにかく視界10メートルくらいの山道を車で走っていると様々な生き物が突然飛び出してくるのである。キタキツネとか鹿とか。
 峠の辺りで突然鹿がガードレールを乗り越えて車道に飛び出してきた。
 視界が悪いのでスピードを出していなかったからよかったものの、もう少しでもスピードが出ていたら衝突していたであろう。
 その間一髪の状況でおかんが言った。
 「この鹿、放し飼いか?」
 「いや、飼ってるんではなく野生やろ」とこのワタクシ。
 「ふ~ん」とおかん。

 しばらく走ると、霧も晴れてきて視界もよくなった。
 すると、山の斜面のあちこちに鹿がいるのが判った。
 「ここにも放し飼いやで」とおかん。
 「せやから、飼ってはおらんちゅうねん」
 何度言っても、「放し飼い」と思っているようである。

 ようやく知床半島の反対側のウトロのホテルに着いた。
 晩飯を一緒に食っていると、
 「さっき見た鹿も料理で出てくるんかな~」とおかん。
 「少なくともこの辺りの鹿は野生とはいえ、捕獲はせずに保護されてるんとちゃうか」とこのワタクシ。
 それにしても、普通なら、野生の鹿を見たら、感動こそすれ、食べることは考えんやろ。どういう神経しとるんだ。
 無理やり、野生の鹿に感動しなかったのかどうか話をふってみた。
 「せやけど、鹿、一杯おったな~」とこのワタクシ。
 口に入れたものを噛み砕いてから、おかんは呟いた。
 「そうかな~。奈良にはもっといっぱいおんで」とおかん。

 そうだった、、、奈良には「放し飼い」の鹿がいっぱいいて、時には交通妨害しているのであった。そして、おかんはその数百、数千の鹿をいつも見ているのである。
 鹿を見て感動するわけはなかった。
 そのとき、昔安芸の宮島に行ったとき、ガイドが「ここの鹿は、、、」と一生懸命説明していたのにまったく感動すら覚えなかった自分の過去を思い出したのであった。 






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