スーツケースで連れてって
まだ大学を出たばかりの頃、付き合っていた彼女とはいわゆる遠距離恋愛であった。
僕は大阪で働いていて、まだ在学中であった後輩の彼女は東京にいた。
今から思えば、大阪と東京の距離なんてたいした距離ではないのだが、社会に出たての頃はトンでもない距離に感じていた。
人間、幼児のときの世界は家の周りだけで、小学生では小学校の校区くらいが世界である。
一般的には、中学生や高校生になっても世界は少し拡大する程度で、隣の県のこともよく知らなかったりする。
大学生でも、新人社会人でも世界はもう少し拡大する程度で、違う地方になれば相変わらず遠いことに変わりはない。
少なくともあの頃の僕たちは、新幹線で2時間半の距離を、北極と南極くらいにの距離に感じていたような気がする。
お互いの連絡ですら、インターネットや携帯電話なんてなかったあの頃は、古典的な手段で行うしかなかった。
それまで、大学生同士で暇だっただけに、距離の問題以上に、電話であれ何であれ、物理的な接点が極端に少なくなっていくのであった。
僕は、入社するなり、一ヶ月に一回程度は海外出張に行くことになった。
その一ヶ月に一回は、二週間に一回になり、多いときには一週間に一回というペースのときもあった。
あの頃、伊丹にしか国際空港がなかった大阪に勤務していた僕の出張は、ほとんどが東京経由である。
大阪から彼女の住む東京に向かってから外国に行き、外国から彼女の住む東京に向かってきて大阪に帰るのだ。
彼女の住む街には月に何回も行っているのに、僕の立ち寄る場所は空港だけである。
最初のうちは、成田空港での乗り換えの際の一瞬に会うためだけに、彼女は成田まで来てくれていた。
しかし、東京と成田の距離の遠さのせいか、いや、ある意味二人の心理的な距離が遠くなったせいか、徐々に僕にとっての東京は飛行機を乗り換えるだけの場所になってきた。
あるとき空港までやってきた彼女が呟いた。
「私も一緒に飛行機に乗って行きたい。一度でいいから、外国でも大阪でもスーツケースに入れて連れてって」
「スーツケースには入らないと思うけど」
「でもぅ。。。」
彼女の最後の甘えるような声は今だに耳に残っている。
今から思えば、外国ならまだしも大阪に連れて行くにはスーツケースに入れる必要なんてなかったのだ。
その後彼女が空港に来ることはなくなった。
そして、彼女を連れ去らなかった僕は、今も一人だ。
(関連エントリー)
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(追記)
ドイツの少年刑務所で、出所する他の受刑者のスーツケースに隠れて別の受刑者が脱獄したらしい。。。
スーツケースで連れ去ることはできたんだ。
(引用)
ドイツの少年院、受刑者がスーツケースに隠れて脱獄
[ 2007年10月30日 12時13分 ]
[ベルリン 29日 ロイター] ドイツ北部のニーダーザクセン州で、19歳の女の受刑者が、出所するほかの受刑者(17)のスーツケースの中に隠れ、少年院から脱獄したことが分かった。州政府の広報担当者が29日に発表した。
この担当者は「(少年院の)スタッフは今後、大きなスーツケースについてより注意深く検査を行う」と述べ、出所した17歳の少女が、友人を大型のスーツケースの中に隠したまま何事もなかったかのように少年院を後にしたことを明かした。
この2人の少女はともに窃盗の罪で服役しており、現在も行方が分かっていない。スーツケースに入って脱獄した少女の刑期は残り2週間足らずだった。
(引用終)











コメント (1)
ほほう。
投稿者: 台北競馬場 | 2007年11月03日 13:09
日時: 2007年11月03日 13:09